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今月は大きなイベントが2つもありました。お越しいただいたご家族の皆さま、本当にありがとうございました。どちらも後から視聴可能なアーカイブ配信がございますので、ぜひご覧ください。


 1つ目のイベントは、クラシカエールが主催したオーケストラのコンサート「旅するエール」です。私たちアノネ音楽教室の弦楽器講師陣も、オーケストラのメンバーとして演奏しました。


 今回の演目には、私自身も大好きな「だったん人の踊り」(A.ボロディン作曲)という作品がありました。よく「最も美しいメロディ」と評される、素晴らしい旋律が冒頭に流れます。特に私が好きなのは、合唱付きの演奏です。


 「だったん人の踊り」は、ロシア軍とだったん人との攻防を巡った人間模様を描いたオペラ「イーゴリ公」の中の1曲で、舞台は1185年のキエフ大公国です(今日衝突が起きているロシアとウクライナ、そしてベラルーシは、いずれもキエフ大公国を文化的なルーツとしています)。合唱を伴う場合は、冒頭の美しいメロディに乗せて、祖国キエフ大公国を思う歌が歌われます。

 作曲者のボロディンは、この国盗り合戦の物語を描いたオペラの中でも、「だったん人の踊り」のシーンには、異民族同士が手を取り合うことが大事だというメッセージを込めたそうです。実際にオペラを見てみると悪役が登場しないのですが、そういったことからもボロディンのメッセージが感じ取れます。そんなボロディンの思いを胸にこの作品を聴いたり演奏したりすると、一層感動が深まります。


 最近は、私自身も痛ましい戦争のニュースに心が痛み、塞ぎ込みたくなるような気持ちが続いていました。そんなとき、ある記事を目にしました。それは「隣にいる人は被災者やウクライナとつながりがある人だと思って、親切にしてみると良い」というものでした。親切な行動を取ることが、相手だけではなく自分の幸福度もあげてくれるのだそうです。もし心を痛めている方がいれば、少しでもご参考になれば幸いに思います。


 直近2つ目のイベントは、1年間を通してアノネ音楽教室全体が一丸となって取り組んだ、「アノネミュージックフェスティバル」のスペシャルコンサートです。これは、映像作品の上映と講師陣による生演奏を交えた、2年ぶりの大きなコンサートでした。こうした催しが実現したのは、映像作品を制作するにあたって、保護者の皆さまに動画提出などさまざまにお支えいただいたからこそです。改めまして、ありがとうございました。


 当日は、子どもたちの素晴らしい歌声に、講師一同心から感動いたしました。ご来場いただくことが叶わなかった方には、事前に参加登録をしていただいている場合、コンサートをそのまま録画した映像を後日配信いたします。いましばらくお待ちいただければと思います。


 今回は子どもたちが出演する映像作品の上映と合わせて、アノネ音楽教室として初めて全教室長・講師が全員登壇して演奏するという試みを行いました。終演後にロビーでご家族の皆さまの晴れやかな表情を見ることができたり、アンケートで喜びの声の数々をいただいたりするなかで、私たちもたくさんの喜びと幸せをいただきました。


 あっという間に過ぎ去ろうとしているこの2021年度には、オンラインでの授業やレッスンが当たり前の選択肢となりましたし、欠席時は空き枠から振替可能という新たなルールも設けました。少し体調が悪いというときや、学校や他の習い事などとの兼ね合いで開始時間に間に合わない場合でも出席を可能にする振替やオンライン受講への切り替えの制度は、子どもたちの学びを絶やさないようにするためのものです。確かに、年間を通して格段に出席率が上がりましたし、子どもたちがさらに学びやすくなったという声をたくさんいただいています。今後もぜひご活用いただければと思っております。


 来る2022年度ですが、更にワクワクさせるような特別授業や企画をご用意いたします。夏に向けては、信州国際音楽村という場所での、数年ぶりの音楽合宿を企画しています(8月14日(日)〜17日(水)予定)。信州国際音楽村には、絶景をバックにした野外ホールがあることに加え、各部屋にピアノが配備されているなど、なかなか無い好条件が揃っていて、アノネの合宿のために設計されたのではないかと思えるほどです。


 そして、年2回の芸術鑑賞会も復活します。1つ目は、ヴァイオリンの名器であるストラディヴァリウスの音色を聴いたり楽器に触れたりできる体験型コンサート(9月4日(日)予定)。そしてもう一つは、やはり体験型のオーケストラのコンサートで、会場はサントリーホールの大ホールです(3月5日(日)予定)。今後は、冒頭にお話ししたクラシカエールというプロジェクトや、エール管弦楽団というオーケストラ団体と提携し、オーケストラの音色を毎年皆さまにお届けする予定です。


 また、クリスマス/スプリングコンサート*にあたる特別授業は、先述した2021年度のアノネミュージックフェスティバルの形に準じつつ、コロナ禍に入る前のコンサートにも近づけて行う予定です(3月28日(火)予定)。全員で制作する映像作品の上映会に加え、希望者はステージ上での合唱に参加できるようにしたいと考えています。こちらの会場としては、新宿文化センターが確保できました。

*従来毎年行っていた、アノネ音楽教室の子どもたちの合唱とオーケストラの共演による、コンサート型の特別授業。


 今後情勢がどうなっていくかはわかりませんが、与えられた環境における最高なものを準備をして、学びの機会をお届けしてまいります。


 この1年間もお通いいただき誠にありがとうございました。そして、お子さまのご進級・ご進学おめでとうございます。また4月にお会いできることを楽しみにしております。

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info@anone-music.com まで、ぜひお寄せください♪

更新日:2022年2月28日

 今回皆さまに任意参加の特別授業のような形でご案内しているオーケストラのコンサート「旅するエール」*が、間近に迫ってまいりました。私、笹森をはじめ、アノネ音楽教室の弦楽器講師も団員として演奏します。

*3月6日(日)17:15開演/会場:ミューザ川崎シンフォニーホール、LIVE配信あり

*会員さま限定の優待チケットがございます。詳しくは文末に記載いたします。


 クラシカエールという団体(プロジェクト)が主催のコンサートで、今年からアノネ音楽教室が運営として参加し、講師らも奏者やスタッフとして携わります。クラシカエールは、”異色コラボや最先端のテクノロジーを組み合わせた「見たことのないクラシック音楽」を通じて、より多くの人々の暮らしをより豊かに変えたい(暮らし・変える)”という思いで活動しているプロジェクトです。


 先述した主催のHPを見ていただければ伝わるかと思うのですが、クラシックと全く異なる分野のものをかけ合わせながら、わかりやすく、わくわくするような形にコンサートを仕立てています。会議の度に伝わってくる「家族で楽しめるコンサートにしたい」「若い人たちにも楽しめるコンサートにしたい」「子どもたちも驚くようなコンサートにしたい」といった主催者たちの思いに私たちとの親和性を感じ、会社として参画することになりました。


 「旅するエール」の第1部では、人工知能”AIVA”が沖縄民謡を学習して作られた新曲を演奏します。会場ではForbes 30 Under 30(世界を変える「30歳未満の30人」)に大谷翔平さんと並んで選ばれた、(株)イノカの高倉葉太さんに、サンゴ礁の魅力を解説していただきます。また、水中写真家の中村卓哉さんをお招きして先日行われたフォトコンテストの入賞作品を会場のスクリーンに音楽と合わせて披露します。なお、人工知能に学習させるにあたっての選曲監修は、当教室の教材や選曲の監修を行う坂村が担当しました。


 他には、クラシック音楽史上屈指の名曲である『だったん人の踊り』(ボロディン作曲)が、なんと日本の阿波おどりとコラボレーション。加えて、会場を使った拡張現実(AR)など、これでもかというほど、ありとあらゆる分野が混じり合った演目になっています。アノネ音楽教室をはじめとした花まるグループ会員の皆さまには、優待チケットの枠をご用意いたしましたので、ぜひ奮ってご参加ください(VIP席に、通常のお席の料金から更に割引した料金でお申し込みいただけます。詳細ついては文末の情報をご参照ください)。また、ご自宅などからLIVE配信でご覧いただくことも可能です。


 さて、年間を通して多くいただく質問の一つは、譜読みに関してです。具体的には、「うちの子譜面が読めないんですが」「ドレミは読めるのに全然弾けないんです」といったものがあります。


 今までに何度もお伝えはしてきているのですが、まず、当教室の子どもたちは基本的に驚くほど譜読みがよくできます。小1以上であれば、アプリ教材によって私たち指導者の子ども時代よりよほどソルフェージュ能力に長けているということを、教室長・講師一同日々目の当たりにしています。


 一方でレッスンで子どもたちを見ていると、譜面を読む能力は十分にありながら、「譜面をしっかり読めていない」ということがわかります。ご自宅でサポートしているなかでも、お子さまが譜面に書かれたことを全然気に留めていない、気がついていない、ということが日常茶飯事という方もいらっしゃるのではないでしょうか。


■譜例1:『8つのユーモレスク』作品101より第7曲(ドヴォルザーク作曲)*

 例えばこの譜面ですが、大人と子どもそれぞれの視点で見てみると、どう違うでしょうか

*弦楽器であれば、スズキメソードの教本3巻に登場。ここでは、原曲のピアノ版の譜面を例にしています。


 大人の視点では、冒頭2小節だけで、このようなことに意識が向きます。

「冒頭の音部記号(ト音記号やヘ音記号)、調号(♭や♯)、拍子記号の確認」「音間違いがないか」「指番号の選択」「音符や休符が正確な長さか」「強弱(クレッシェンドやフォルテなど)の表現ができているか」「アーティキュレーション(スラーやスタッカートなどの音の区切り方)は正確か」「アルペジオのタイミング」「フレーズを意識して弾けているか」、そして譜面に書かれていないことで「フォームが崩れていないか」「リズムが整い、音色は美しくなっているか」など。


また、各楽器に特化したことで、ピアノであれば「ペダルのタイミングや加減」なども加わります。

このように、譜面を読む際にさまざまなことを俯瞰することができ、いっぺんにたくさんの情報が目に入ってくるものです。


 今度は譜例2を見てみましょう。


■譜例2:譜例1より9,10小節目を抜粋


 私自身はよく「縦の情報」と表現するのですが、10小節目(斜体で「10」と書いてあるところ)の1拍目という1秒にも満たない箇所で、音符の縦1列を見るときに、これだけ多くのことを読み取る必要があります。


「調号の♭」(各音符の直前には♭が書かれていなくても、冒頭の調号に♭が書かれている音には全て適用されることになります)「スラーがかかっていること」「ペダルの踏み方、タイミング」「クレッシェンド」などです。


ここまでが、大人の視点の紹介でした。


 さて、多くの場合、人はいっぺんに色んなことを並行して考えることが難しいものです(「ながら作業」のようなレベルではなく、前述のような正確さが求められる場合の話です)。意識というのは、あくまでも「交互」に、または「順番」に向けられるものです。同時に2人の話を聴くことができない一方、あくまでも交互や順番にであれば聴くことができる、といったことです。ではなぜ大人が前述のようなマルチタスクをこなせているかというと、視点や意識を順番に切り替えているからです。子どもにはそれがなかなかできないものです。


 さらに、単に人生経験の長さの問題もあります。例えば、彼らが調号(冒頭に記載される♭や♯)を見落としてしまいやすいのはなぜでしょうか。私たち大人は長年さまざまな音楽(クラシック音楽と限らず、ポップスやBGMなども含む)を聴いた経験から”調性感”がついていて、調号の♭や♯に過不足があったり、間違った箇所についたりしていると、すぐにわかるものです。これは音で聴けば歴然です。そして、子どもたちはその調性感がまだあまり身についていないがために、♭や#に過不足があっても、違和感を抱けないということが当たり前に起きます。


 同時にたくさんのことを見たり考えたりすることについては、太鼓の達人を思い浮かべていただくとわかりやすいのではないでしょうか。縦の列を見るとき「叩くタイミングだけ」、要は音色や力強さ、表現などは関係なくリズムだけを意識すればいいのですが、あれだけでも初見で叩くのはどれほど難しいか(譜面の形でなくなった途端、私は全然できなくなります(笑))。


 それに比べて、実際の音楽で使う譜面を読むときは、リズムだけではありません(多くの打楽器のようにドレミの音程が無い場合でも、それ相応に意識すべきことが多々あります)。ここだけでもいかにハードルが高いかという話です。


 特に初見演奏ができる音楽経験者は、”周辺視”ということができます。簡単に言うと、一つのポイントを見たときに、その周りの情報もセットでキャッチできるという状態です。つまり、そのとき追っている音以外にも、しっかり周りの情報(ペダルや強弱などの記号、先の音など)を把握することができるというわけです。


 では、子どもはどうでしょうか。多くの子どもは、周辺視が全くできません。初見演奏ができるようになるということは、つまり周辺視ができるようになるということですが、普通そこまで数年はかかります。それまではとにかく一つの音だけ、あるいは一つの情報だけを追いかけて見ることしかできません。ピアノであれば、左右の手の楽譜を見るのも大変なことですし、一つの音を読むことに必死な子どもたちは、そもそも周辺に記載されている強弱や表情の記号までは意識もできなければ、そもそも視界にすら入ってきません。


 子どもが「3小節目の音符の上に何が書いてある?」と聞かれて、初めて「あ、スタッカートが書いてある!」と気づくことなどは、日常ではないでしょうか。逆に、視界に入っていない情報について指摘することは、窓枠から見えない部分の景色について、何があるか問い詰めているようなものです。


 さて、このことは、発表会などの舞台で立派に弾けるようになっても変わりません。余裕が出てくれば他に視線をやることができますが、意識の切り替えや、一度意識したことの持続はまだできないことも多々あります。「ダイナミクス(強弱)に気を付けてごらん」と伝えると、そのことだけに意識が向き、フォームが崩れたり、譜面に書いてある別の項目であるスラーを忘れたり。そもそも見ている位置も違います。スラーは譜例3のように上の段にかかっていますが、強弱を変化させる記号であるクレッシェンドは真ん中に書いてあるので当然です。


■譜例3

 基本的には、子どもたちは同じ高さのラインを見がちです。いろいろなラインを見なければならないにもかかわらず、視点の上下1cm移すことすら難しいわけです。


 さらに、一生懸命弾けば弾くほど見ている視野が狭くなります。そして、最大の問題は、弾くことに注力しているときは、自分の音をほとんど注意深く聴けていないということです。聴けたとして、せいぜい音が合っているか間違っているかぐらいで、ニュアンスがどのようになっているかというところまでは聴けていません。


 その子の視界が、本来は電車の窓の大きさ程度あったとします。しかし、その子が譜面を見ているときは、1c㎡見えていればいい方です。ゆっくりな電車であれば、景色(=譜面に書かれている、俯瞰すれば見える多くの情報)のうち、看板に書かれている文字(=音符や細かな指示記号)まで見えます。一方で、速く弾いてしまうと、新幹線に乗っているようなもので、看板の文字も読みにくくなれば、その文字を見ようとすると、更に周りの景色は見えなくなるわけですね。


 だからこそ、インテンポ(正規のテンポ)で練習しても、ほとんど見落としてしまいます。というより、見えてすらいません。これは、聴くことについても同じです。演奏するテンポ(スピード)が速ければ、新幹線の窓から過ぎ去っていく景色のように、音の輪郭がぼやけてほとんど聴けてない状態になってしまいます。しかし、子どもこそゆっくりな練習が嫌いなものですね(笑)。そこで、私たちの声かけが重要になってくるわけです(詳しくはセミナーでお伝えしています)。


 お伝えしたいのは、譜読や初見演奏だけでもこれだけの複雑さがあり、多くの壁が立ちはだかっているということです。できていないことのほとんどは自然発生的なもので、子どもの不注意と簡単に結論付けることはできません。それだけ高度なことをやっているわけです。そう思うと、一見雑に思えてしまう子どもの練習に対して、少し見え方が変わってくるのではないでしょうか。


 さて、受験を終えた子どもたちとご家族の皆さま、本当にお疲れさまでした。たくさんの方々からのご報告を受けております。厳しい受験そのものが子どもたちを大きく成長させてくれるものですが、先日私の門下でも嬉しいご報告がありました。私のクラスに年少さんのときから通うRくんが、受験を終えて連絡をくれたのです。電話越しに「受験休会の間、チェロで願掛けしていた!」と言うので、「チェロで願掛けって何?」と聞くと、「毎日10分練習したら受かると思って弾いてたんだ」ということだと教えてくれました。本来弾かなくても良かった受験休会期間中のことです。そんな、なんとも誇らしく嬉しい報告に、先生のあゆみ(通知表)は先生がいないところでの子どもの姿こそが物語るなと感じました。

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『旅するエール』〜Play for the Blue Ocean〜 詳細

クラシック×異色コラボのソーシャル・エンターテインメント!

世界の海へ旅をしたかのような体験へ!


●日時:2022年3月6日(日) 16:30開場 17:15開演予定


●場所:ミューザ川崎シンフォニーホール

※本公演は4歳以上の方に入場いただけます。


●プログラム(抜粋)

スメタナ作曲 連作交響詩「我が祖国」より モルダウ

グリーグ作曲 2つの悲しき旋律より 春

ボロディン作曲 歌劇「イーゴリ公」より だったん人の踊りfeat. 阿波おどり

ドヴォルザーク作曲 交響曲第8番ト長調 etc…


●アノネ音楽教室会員の優待チケットについて

「チケットぴあ」上で選択できる【団体席】が、アノネ会員の方の優待券にあたる項目です。

よりお値段のグレードが上の【VIP席】と同じ席ですが、【団体席】をお選びいただくと、廉価にご購入いただけます。


<例>

【VIP席】の項目をご選択いただくと:合計10,900円

【団体席】の項目をご選択いただくと:合計8,000円

→2,900円割引!

※大人・小人各1名の場合。人数が異なる組み合わせでの購入も可能です。

※【VIP席】のお子さま単体のチケットは異なる金額に設定されていますが、【団体席】の大人のチケットと組み合わせてご購入いただいても連席になりません。


●お申し込み

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2135951


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 あっという間に松の内が明け、月末となってしまいました。本年もよろしくお願いいたします。


 三が日明けには、新年第一弾の企画である、実技強化コース『ミュージックアカデミー』を開催いたしました。多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。


 私自身は弦楽器のコース『お弾き初め(おひきぞめ)』の担当でした。これは、初学者から上級者までが一緒に演奏できるコースです。華やかなソロパートを弾く子どもたちをジュニアオーケストラが伴奏するなど、教室全体の人数や演奏レベルが一定のところまで達しなければ実現できない試みも行いました。開校7年目にして、ようやく開催することができたのです。


 子どもたちからは、憧れのお兄さんお姉さんと演奏できたことについて、たくさんの喜びの声が上がりました。また、ホールにて大人数でアンサンブルすることで生まれる響きの素晴らしさを感じることができたとも聞きます。また、子どもたちだけでなく、講師や保護者の皆さまからも、心温まる時間になったという声が寄せられました。今後も毎年の恒例行事として、多くの方にご参加いただけるものにできればと思います。


 さて、先日とある大きな音楽教室さんから仕事の依頼がありました。”クレド”の作成です。クレドとは、企業の活動や仕事の基準となる信条や価値観、行動指針のことです。外部で行った講師研修を評価していただき、今回の依頼を受けるに至りました。


 音楽教室を経営の観点から見たときに一番難しいことの一つとして挙がるのが、講師のサービスのクオリティコントロールです。多数の講師が在籍している教室では、レッスン内容などのサービスを講師裁量に任せているということも少なくありません。そこで浮上してくるのが、サービスの質の差という問題です。同じ教室の名のもとでも、講師によって差が出てきてしまうといったことです。ここで言うサービスとは、具体的には指導の仕方や講師の音楽的なポリシー、生徒への言葉がけ、保護者に対してのスタンスなど、さまざまです。


 昨今はSNSや口コミサイトに、保護者のリアルな声が多々寄せられています。かなり詳細なものもあり、「◯◯音楽教室に通っている」ということに留まらず、「◯◯音楽教室の△△先生のレッスンを受けている」などと書かれていることすらあります。


 サービスを提供する側が、企業や組織としてだけでなく、そこに従事する個人単位で評価・判断されるということは、音楽教室のみならず、幅広い業種・業態で一層顕著になっています。だからこそ、企業であれば同じ理念のもとでサービスを均一化するということが大切です。均一化といっても、先生の個性をなくせという話ではなく、それぞれ理念やクレドを大事にし、現場で指導する際に扇の要を外さないというイメージです。


 ちょうど先日、アノネ音楽教室でも、実技レッスン講師向けの1日がかりの研修がありました。開校当初に比べ講師が増えたこともあり、理念や行動指針に立ち返る時間にしました。チームごとにディスカッションしたり、挙がった意見を共有したりしました。


 アノネ音楽教室の行動指針はシンプルです。大項目は3つありますが、そのうちの一つは、「教育者の集団であること」です。そうあるために、具体的に下記の2つのことを挙げています。

1. 講師が教育者として研鑽を積み続け、成長している


2. 自分にベクトルを向ける。ネガティブな現象は、全て自分に責任があるものと考える


 1については、勉強会や研修を通じて、組織規模でも常に実施するほど、重要度が高いものとしています。そして、それ以上に大事だと思うのが2です。


 例えば、子どもが忘れ物をしてしまったとき。忘れたのは子ども自身ですが、講師が自分の責任だと思えるかという話です。練習をしてこない。やる気がわかない。ふざけてしまう。全ての出来事を自分に責任があると解釈できるかどうかです。


 自責で捉えることの一番のメリットは何でしょうか。それは、当たり前なのですが、「自分自身が相手に対して支援し続けられる」ということです。


 例えば、子どもに「忘れ物をしちゃ駄目だよ」と言うだけでは、声をかけた講師自身がどうにかできる問題とは捉えられていないでしょう。忘れ物の責任は子どもにあり、忘れ物をするかどうかはあなた次第、という他責のニュアンスがあります。


 逆に、忘れ物をすることは私の責任だと考えることができれば、忘れ物をさせないのも講師の働きかけ次第で変えることができるということになります。

「どうやったら忘れ物をしないで済むか、一緒に考えようか。譜面のここに書いたら毎日見るかな?お母さんに声をかけてもらうように伝えようか?」

といった声かけになるかもしれません。前者の、子どもにただ「忘れ物をしちゃ駄目だよ」と伝えるのとは、大きな違いがあります。もちろん、あくまで子どもが主体であることに変わりはありませんが、講師の意識のもとで変化が起きるということが要点です。

自責の考えに基づくと、最大の利点は「これが駄目だったから今度はこうしよう」と、常に課題達成までの選択肢が広がり続け、子どもへの提案が尽きないことです。


 しかし、他責の考え方であれば、子ども自身が目標達成する手段を考えなくてはいけなくなるので、選択肢もあまり増えません。


 練習の課題一つ取っても全く同じです。「なんで弾けないの?」と伝えるだけでは、子ども自身が練習方法や練習プランを考えなければいけなくなります。それは、冷静に考えれば非常に難易度の高い要求です。低学年ぐらいまでであれば、「忘れ物をしてはいけない」と言われた瞬間は覚えていても、次の日には忘れて終わりといったことも、ごくごく普通です。そのように、忘れ物をしてしまったり、うまく弾けなかったりする理由が講師自身にあると考えられたとき、講師側からどんどん提案することができます。


 以前外部で研修した際にこんな話を聞きました。あるとき、子どもがレッスンをすっぽかしたそうです。そして、講師が保護者の方に連絡すると、「ああ〜、遊びに行って忘れていると思うので、今日は休みます」という答えが返ってたそうです。それを聞いた講師さんは、「レッスンをそんな簡単なものと捉えているのであれば、他の教室で習ってください」と伝えたということでした。


 確かに、大事なレッスンをすっぽかされたときの憤りの気持ちはわかります。それに、そういったスタンスを取るのが先生のポリシーなのであれば、私がとやかく言うことではありません。しかし、私の研修を受講していただいていたので、一つ提案しました。

「『そうですよね!忘れちゃいますよね。お母さまもお忙しいと思うのですが、〇〇くんがレッスン時間に間に合うように、何かできることはありますか?』と伝えることもできますよね」と。保護者と上手にコミュニケーションを取ってほしいという思いを込めつつ、物事は自責で良くすることができ、選択肢も増やせることを伝えたかったのです。


 かく言う私もそうです。子どもが集中できないのは自分の力不足なのではないかと考えた日から、アプローチは変わりました。「集中して」「練習しないなら見ないよ」「さっきも言ったよね」という他責のパラダイム(物の見方や捉え方)ではなく、自責のパラダイムを持つことで、自分自身の選択肢が増え、子どもたちのモチベーションにも前向きな影響があったのです。

 さて、先日、ある1年生の男の子レッスンでも、パラダイムが変わる出来事がありました。その子は、レッスンで一息つく度に楽器をめちゃくちゃにギコギコ弾きます。今までであれば、「楽器は大切に扱って」「壊れちゃうよ」と伝えていました。これも間違ってはいないと思うのですが、少しアプローチを変えてみました。

「ちょっと見てみて?先生もやってみる!」

と言って、同じようにめちゃくちゃにギコギコ弾いてみたのです。子どもの真似を大人がすると、それはもうひょうきんな感じです。


 彼は爆笑して「変なの〜!」と気づいてくれました。そんなふうにおどけた自分自身も滑稽で、笑いが止まりませんでした。そこから、彼は明るい気持ちのまま、やる気を持って取り組んでいました。きっとギコギコやりたい彼に「楽器は大切に扱って」と伝えていれば、その後のテンションは違うものになっていたでしょう。


 さて、理念やクレドといったお題目を立てても、行動できなければ意味がありません。そして、それらのことは、現場でのほんの一瞬のやりとりや言葉尻に現れるものです。まさに細部に神は宿るというということで、コミュニケーションにおける一つひとつの言動を大切に、いつまでも自責の指導を心がけていきたいと思っています。


アノネ音楽教室 笹森壮大


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