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執筆者の写真広報 株式会社グランドメソッド

リレーコラム:2022年12月『集積』坂村 将介(さかむら まさゆき)

更新日:2023年1月13日

執筆者紹介:坂村 将介(さかむら まさゆき)

子どもたちからの愛称は”まさ先生”。専門領域は作曲。

現在は、お茶の水校 集団音楽教室 土曜日クラスの教室長(ソルフェージュ・ヴァイオリン・ピアノ)と、アノネ音楽教室の教材開発を担当。

『ぽるか』『きりえ』など、当教室で扱う世界各地の歌の選曲や、それらの授業やコンサート向けの作編曲を全編手掛ける。最近はアラブ音楽を探究中!


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「集積」

 「あなたが先生、それも教室をつくるようになっちゃうなんてなあ。わからないものね」

先日、子どもの頃よく面倒を見てくれたおばに言われた一言です。ふと、私が幼少期に一番初めの習い事であった音楽教室に通い始めたときのことを思い出したそうなのでした。


 私としては、当時の先生はよく褒めてくれたなあと思っていたのですが、おば曰く実際には不器用すぎて期待されておらず、”通っているだけでも立派”という扱い。半ばあきれられていたというのです。


 その割りにおしゃべりだけは達者で、お友だちに

「あつしくんは、なんだかおもしろい匂いがするよね」

と悪気なくみんなの前で言って、その場の全員を焦らせることもあったそうです。

もっとも、

「なぜか1年くらい前からこんな匂いになっちゃってさあ」

という彼の返しで、場が和んだとのことでした。


 さらに、

「周りの子たちが両手ですらすら弾いていた頃、あなたは右手もままならなかったくらいよ。それが2年くらい通って急に、本当にいきなり、両手でがんがん弾き始めた日があって…先生も私も目を丸くしたことがあったわ。まあその後も練習しなかったり、とんちんかんなことをやってたりで、なんだかなあって感じだったけど(笑)」

と続きました。


 言われてみれば、確かにその後も不器用さを発揮し続け、思うように上達できないことが常でした。しかし、時たま急に

「なんだか気づいたらこれができるようになってきたな」

と実感することも確かにありました(実は今でもそうなのですが…)。


 誰しも、よちよち歩きからお稽古が始まります。そして、曲を弾く前にいくつかの音を弾いてみる段階を経て、『キラキラ星』や『ちょうちょう』といったかわいらしい童謡のような曲に。楽器や始める年齢によっては、そこまでで数か月から1年以上かかることもあります。今でこそ、私がそのような姿を見ると、先々の成長の道筋までもが見えてきます。しかし、そんな先々のことは"想像もできない”ということが多いことと思います。かくいう私も、教えることに携わり始めた頃は、幼少期に自分がかなりのんびりなペースで進んでいたことなどすっかり忘れ、受け持った子の目先の出来栄えばかりに囚われがちでした。やきもきしてしまいそうな気持ちで教育者としての先輩方に相談すると、

「長い目で見てどうなのかが大切」

「必ず成長していくから、その子の先生である君が信じて、全力で向き合うこと」

といったアドバイスをかけていただき、私自身も、目の前の子も救われたものでした。もちろん、

「出来栄えが全てではない」

「長い目で見る。後のびもある」

といったことに偏らず、スモールステップをも同時に見ていくことも私たちの責務ではありますが。


 現在多く担当しているクラスの一つに、年中・年長さんくらいのグループレッスンがあるのですが、特に始めの時期は進みがゆっくりということもかなりよくあります。現在小学3年生でヴァイオリンを弾くAちゃんも、グループレッスンからのスタートでした。年中さんの頃はご両親から離れるのも大変で、いつも涙ぐみながら教室に入ってくるようなところから始まりました。さらに、1曲目が弾けるようになるまでは2年ほど時間がかかったものです。甘えん坊さんで、大人がお手伝いをするまでは手を動かさないこともしばしばでした。小動物の鳴き声のような、言葉にもなっていない愛らしい声で、うるうるした目で訴えかける。それが彼女の教室でのコミュニケーション手段でした。しかしある時期、突然のように周りのお友だちと打ち解け、私に対して冗談を言うことも出てきました。また、実技面では、教本に載っていない曲でも

「これが弾きたいの!」

と果敢に挑戦するまでになりました。教本でいえば3つも4つも先の巻で習得するはずのテクニックが必要でも、そんな型枠にとらわれずやってのけます。始めの2年間、楽器を持ったり指をしっかり置いたりすることにも奮闘していた姿が、今ではなつかしく思えます。


 とはいえ、Aちゃんのような子は、どこかの時点で急に伸びたように見えて、その前段階にかなりの積み上げがあるのが実のところです。水面下で醸成されているものがあるということでしょう。彼女であれば、始めた頃から今までずっと通っている集団音楽教室で得るものが大きいといいます。さまざまな言語で歌う、世界各地の歌を通して触れる世界観や音楽性。アンサンブルの迫力ある生演奏や、作曲家の生涯の話。それらは、教本に載っていない憧れの曲に挑戦するようになったきっかけでもあります。習慣が定着するまでは少し時間がかかりましたが、アプリ教材『プリモ』に毎日必ず取り組んでいて、楽譜の読み方の基本はばっちりです。また、お友だちとのつながりも大きな励みになっていて、レッスンと同じくらい、一緒に帰る時間が彼女の楽しみだそうです。私自身の歩みを振り返って、

「こういうことがあったから続けてこられたんだよな」

という要素を散りばめながらコースや教材を設計してきただけに、そんな彼女の姿には感慨深くなります(私自身の歩みについては、またの機会に取っておくこととします)。


 Aちゃんを見てきた私たち講師陣が、今のような成長を信じ続けてきたのは言うまでもありません。そしてそれ以上に、ご両親も共働きで3人きょうだいのやりくりで忙しく、さらに遠方からお通いというなか、いつもあたたかいまなざしを持って預けてくださっています。彼女がこれまでに見たもの、聴いたもの、実体験、そして彼女を見守ってきた目といった、大小さまざまなことの集積が、そのような成長に結びついています。


 あっという間に2022年が締めくくられようとしています。お子さまの学年が上がる節目も近づいてきました。来る年も目の前にあるステップとして日々の歩みを大事にしつつ、先々の長い成長を見据えてサポートしてまいります。お子さまが私たち大人の手元を離れたとき、たくましく、魅力的に生きるうえでの一助となれることを願いながら。


 皆さまどうか良いお年をお迎えください。




アノネ音楽教室  坂村 将介(さかむらまさゆき) - ”まさ先生”

教材開発・作編曲担当 / お茶の水校 土曜日クラス教室長


♪コロナ禍において、子どもたちと一緒に制作した作品一覧はこちら


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コラムに対するご感想などがございましたら、

info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪


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