執筆者紹介:町田 光優(まちだ あきひろ)- 集団音楽教室 教室長、合唱指導者
「レッスンはお祭りみたいに楽しむもの!」と、学ぶことの楽しさを体現し、子どもたちからも大人気の”まっちー先生”。
2024年現在、お茶の水校 土曜日クラスや巣鴨校の集団音楽教室、小学校高学年向けのエキスパートコース、また花まる学習会の教室長として、約200名の子どもたちを担当。夏の音楽合宿や、花まる学習会主催の野外体験では、宿長としてコースを支えることもある、アノネ音楽教室のエースです。
年中・年長さんから、小学生、中学・高校・大学生まで、幅広い年代のお子さまとともに音楽を楽しんでいます。合唱の指導者としても、熱く音楽を描きます!
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私は最近、認知症を患っている父方の祖母の介護の手伝いに行っています。昨年、祖母に久しぶりに会ったときに、たった数年でここまで変わってしまうのかと驚きました。祖母が介護施設に入るきっかけとなったのは、数年前のあるとき外出したはいいものの自宅への帰り道がわからなくなってしまった、という事件からでした。それも、長年住んでいた家にです。通りすがりの方に連れてきてもらわなければ帰宅することも難しかったそうです。
そんな祖母に少し前に会いに行った際、私と話すと、自身が13歳や17歳の少女であるように錯覚し、「ちゃこちゃん」という少女時代のあだ名で自分のことを言い表していました。くわえて会話のなかでは、お店の手伝いをしていたという幼少時の体験を、今この瞬間の出来事のようにいきいきした口ぶりで話したものです。
祖母は、普段世話をしている私の両親のことはかろうじて認識するものの、私の父のことを、お腹を痛めて産んだ息子であるとは気づきません。それもそのはず、自分の息子はまだ6歳くらいだと思っていたからです。同様に、私の父の弟や、父の息子である私、私の弟との血縁関係について、まるで把握できなくなっていました。ですが、好きだった歌のことはよく憶えていて、たくさん歌って聴かせてくれます。
そんななか、祖母の夫である私の祖父が亡くなり、祖母自身も急に立ち上がった際に転んで骨折をし、と不幸が続きます。その影響か認知症はますます悪化。介護施設では、周囲の要介護者とおしゃべりをして食事が進まないからという理由で、他の方と席を離されてしまいました。介護施設内の広い部屋で、ポツンとひとりご飯を食べている祖母の背中がなんとも寂しく、手伝いに行った私も切なくなってしまいました。
さまざまな条件を考慮した結果、施設を変えることに。私自身が繁忙期を経て再び祖母のもとを訪れたのは、新しい施設に入って2か月ほど経った頃でした。新しい施設は大きな平屋がいくつも連結していて、そのなかのリビングルームのような場所に要介護者の方たちが集まって過ごしています。まず驚いたのがスタッフの方の挨拶です。
「こんにちは、町田です」
と挨拶すると、
「待ってました~!」と笑顔で迎えてくださいました。
「ちゃこさーん!ご家族の方来てくれたよ~!」
と祖母のところに案内してもらうと、以前より顔色が良さそうでした。
祖母に声をかけると、
「あなたはえーと?」
「あきひろだよ!」
「ああ!あきちゃんね!」
この二言三言の簡単なやりとりに、私は衝撃を受けました。「あきちゃん」は、祖母が認知症を患う前の、私への呼び名だったからです。続く会話のなかでも、「いや〜ババはさ〜」と、私にとって彼女が祖母であることをふまえて話してくれました。話す相手との関係性によって人の呼称を変える。これは認知症患者にとってはとても難しいことです。たった2か月でそれができるまでに変わっていたことが、大きな驚きでした。その施設ではどのスタッフの方も、祖母や私がまるで家族の一員であるかのように接してくださいます。通りかかったスタッフの誰もが、耳の遠い祖母のもとへわざわざ近寄って、
「ちゃこさん元気〜?」
「会いたかったよ〜!」
と口々に挨拶してくれています。
祖母は要介護者を含む、この施設で初めて出会った方々とも打ち解けて、よく話しているようです。私の帰り際には得意な歌も披露してくれたりもします。適切な環境や、関わる人の温かさによって、人はこんなにも変わるのだと実感しています。
祖母とのかかわりを経て、アノネ音楽教室に大事なお子さまを預けてくださっている保護者の皆さまのお気持ちが、ほんの少しですがわかった気がしました。家族や親族といった、自分の一部ともいえる存在を預ける不安や心配。それはしかし、預かる側が家族のように温かく、愛情を持って接することでぬぐわれて、安心や感謝といった前向きな感情に変わっていくこともあるのだと学びました。祖母のそんな現状に和やかな気持ちを抱きながら、私自身の教室長としてのあり方をいま一度考え、またお子さまや保護者の皆さまとお会いすることがより一層楽しみになるのでした。
アノネ音楽教室 町田 光優(まちだ あきひろ)- ”まっちー先生”
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