執筆者紹介:志水 茜(しみず あかね)
子どもたちからの愛称は"あかね先生"で、専攻はピアノの演奏。アノネ音楽教室ではピアノ実技レッスン講師のほか、お茶の水校と巣鴨校においてピアノグループレッスンの講師としても活躍。学生時代は主に20世紀前半のクラシック音楽(近現代音楽)を学び、演奏の腕を磨くと同時に、さまざまな音楽に親しんできました。「いつもニコニコでレッスンしているよね!」と子どもたちに言われる元気いっぱいな先生です!
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『成長への道』
この夏私は初めて、花まる学習会の野外体験 《わくわくアドベンチャー》に参加しました。班リーダーとして3泊4日間小学生の子どもたちを引率し、新潟県の大自然の下で寝食をともにしてきました。そんな中で出会った小学5年生のAちゃんのエピソードをご紹介します。
班のみんなから副リーダーと呼ばれ、頼りにされていたAちゃん。彼女がみせたファインプレーは多くあります。ひとりでポツンとしている子がいたら、
「向こうに綺麗な石があるから行ってみようよ!」
と積極的に誘い、ホームシックで泣いている子には、
「私も初めてのサマーのときはずっと泣いていたよ!大丈夫、慣れるから!」
と豪快に笑い飛ばしてみせる。小学1年生の子が、
「服がない~」
と半べそになっていたときには、すぐに飛んで行って一緒に探し、着替えも手伝ってあげていました。そしてご飯の片付けの際には、最後まで机を綺麗に拭いていました。そんなお姉さん気質なAちゃんの涙を見ることになるなんて、そのときの私は思ってもみませんでした。
最終日にはコースの責任者である宿長が、宿に泊まった子どもたちの中から選んだ「MVP」を発表します。4日間の活動を通じてもっともめざましい活躍をした子を表彰し、みんなで讃える大切なイベントです。合宿に参加した子どもにとって、MVPに選ばれることはスポーツの試合や芸術のコンクールで1位を取ることと同じくらいの価値があります。
「今回のMVPは...! 」
Aちゃんも含め、みんなが一気に緊張の表情に。
「...〇〇班のBくんです!」
宿長が発表すると、大きな歓声が湧きました。
「おめでとー!」
「よかったね!B!」
Bくんは笑顔で、とても誇らしげな表情をしていました。
そのすぐ後にAちゃんのほうを見ると、目に大粒の涙を溜めながらBくんに向けて拍手していました。副リーダーと言われるほどお姉さん気質なAちゃんが泣いている姿に私は戸惑いました。
MVP発表の後は部屋に戻り、賞状を班リーダーからもらう時間になります。子どもたちが合宿を通して頑張ったことや、成長したことを言葉にして1対1で伝える時間です。私はそこで、隣の部屋に個別に子どもたちを呼んで賞状を渡すことにしました。このときAちゃんは部屋の隅に体育座りして、顔を伏せていました。
いよいよAちゃんに賞状を渡す時間がやってきました。顔を手で隠して入ってきたAちゃんは、扉がしまった瞬間、私のところに駆け寄って泣きはじめました。堰を切ったように泣いているAちゃんに驚きながら、みんなが集まっている部屋では我慢していたのだ、と私は察しました。
Aちゃんが落ち着いたタイミングを見計らって、
「どうして泣いていたの?」
と尋ねました。するとAちゃんは、いつもの力強い声からは想像がつかない弱々しさで、
「MVPに選ばれなくて悔しかったから」
と、答えました。それを聞いて私は、Aちゃん自身が頑張ってきたことを自分で認められるようになって欲しいと思い、彼女と4日間の振り返りをすることにしました。
「この日は〇〇で〇〇ちゃんを助けていたよね。次の日には…」
そうして話していくうちに、Aちゃん自身が他の人のためにがんばった行動の多さに驚きながら、しだいに笑顔になっていきました。
「大人になったら立派なリーダーになれるよ」
と私がいうと、
「まずは高校生リーダーからだよ!」
と彼女は照れ笑いを見せました。
ときには壁にぶつかって思いっきり悔しがるのも大切な経験。その上で悔しいという感情にとらわれすぎず、積み重ねてきた努力の価値を認められるようになるのが一番大事なのではないでしょうか。自分の頑張りを見てくれる人がいるという安心感や、自分の気持ちを受け止めてもらえるんだ!という自信がつき、次のチャレンジに踏み出す勇気に繋がっていきます。
音楽も同じです。自分なりのベストを尽くし、納得のいく演奏ができたとしても、周囲から認められないことが今後もあるかもしれません。そのときに、結果だけに目を向けて落ち込むのではなく、それまでの努力を自分自身で認められるように、日々のレッスンで子どもたちの頑張りを言葉にしてサポートしていきます。
自分では自分の頑張りになかなか気が付かないもの。だからこそ、すぐ近くにいる私たち大人が、その子の努力をたくさん伝えてあげられる存在でありたいと思っています。
アノネ音楽教室 志水 茜(しみず あかね)- ”あかね先生”
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